「希望退職制度」に募集した社員の慰留の法理について

人材育成ブログ

 東京商工リサーチの調査(2021年1-3月上場企業の「早期・希望
退職実施状況」(公開:2021年3月31日))によると,本年第一四半
期に希望退職制度を実施した上場企業は41社にのぼり,前年同期の2倍
ペースで推移していることがわかります。募集人数も1万人弱とリーマン
・ショック後の2009年に次ぐ高水準を記録しました。
これは,新型コロナウイルスの感染拡大による消費低迷が最大の原因と
考えられています。政府や自治体が国民に外出・会食の自粛やテレワーク
を要請し,催事などのイベントの開催自粛が消費低迷に拍車をかけたとい
えます。
希望退職者を募集した上場41社の業種別内訳はアパレル,電機,観光,
運送業などですが,いずれの企業も消費低迷,販売不振に伴う業績の悪化が
原因で人員削減による人件費削減を経営再建の大義に据えています。
 一方,日本の希望退職制度は対象者の範囲を「勤続3年以上,50歳以上
59歳未満の間接部門と生産部門の社員」などとセグメントを行って募集を
かけることが通例になっています。
この理由の1つは,人事制度が年功序列的運用になっているため,年収の
高い高齢者に応募してもらったほうが財務的に実効性が高いためです。
つまり端的にいうと,人件費の削減効果は,高齢者1人が若年者2人に相
当すると考えるからです。また,経営者は収益に直結する直接部門の社員で
はなく収益とは関係の薄い管理・間接部門の社員を対象にすることが合理的
だと考えています。
 一般に,希望退職者の募集は期間を限定して行い,実施方法は該当部門の
2つ上の上司との個別面談を通して応募の意思を確認するという方法をとり
ます。
 また,面談中に上司から退職の強制や脅迫を行えば違法になりますが,該
当部門本人からの応募に関しては原則自由です。
 しかし,優秀社員に退職されると希望退職実施後の会社の再建は難しくな
るため,会社は慰留を試みることがあります。その場合でも本人の退職の意
思が固く,会社に退職願を提出すれば,希望退職の募集終了後の所定の時期
に退職が認められることになります。
他方,会社が誠意を持って引き留めたにもかかわらず退職し他社に転職し
てしまった社員に対して,希望退職制度の優遇措置といわれる割増退職金の
支給を認めなかったことが裁判に発展したケースがあります。
 1991年12月24日東京地裁判決の浅野工事事件という有名な裁判例
です。この事案は東京都中央区日本橋に本社のある浅野工事という上下水道
施設の工事会社に勤務していた社員2人が1990年5月に希望退職制度の
適用(割増退職金)を希望して退職しましたが,会社は2人が会社にとって
必要な人材と判断したため合意解約を認めず,合意解約でないことから希望
退職制度の優遇措置を適用しないとした事件です。
判決では,割増金支給の要件である希望退職制度適用の判断は会社が決め
ることができるとされました。これは,希望退職制度という雇用調整策は経
営再建が目的であるため,優秀な人材が退職すれば会社は弱体化し再建がで
きないとしたうえで,「応募者の承認は会社が行う」と募集要項に明記すれ
ば,会社が応募者の選定ができるということが前例になった事件です。

株式会社comodo
特別顧問 永島清敬

人事制度に関するご相談はお気軽に
石垣敦章 080-3574-4261