選挙公約と人事制度について

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 2022年7月10日に投開票された第26回参議院議員選挙の結果
が翌日の朝刊一面に掲載されました。本号では候補者の選挙公約と公約
の実現可能性について人事制度の観点から論評したいと思います。
今回実施された選挙は新型コロナウイルス感染症対策のせいか,候補
者が有権者と接触する機会が以前より少なくなった気がします。
投票日の10日くらい前には新聞にタブレット版の「選挙公報」が入
っていました。候補者の公約(「マニュフェスト」)を読むと,実に大き
なことが書かれていることに驚かされました。

 一方,当選者の公約は果たして守られるのかどうか,気になるのは
筆者だけでしょうか。報道各社のインタビューに対して当選者は,一律
に「投票していただいた有権者のご期待に添うよう国会では一生懸命が
んばります」などと発言しています。
このように当選した候補者は当選の余韻に浸るあまりテンションの高
い発言が多いため,テレビを見ていた投票者は「この候補に投票してよ
かった」などと思うのかもしれません。
 しかし,問題は当選後の行動です。選挙は勝つことが目的ではなく,
当選後に公約を果たすことが有権者に対する恩返しです。
以前話題になった議員は報道陣からの「今一番やりたいことはどのよ
うなことですか?」という質問に,笑顔で「早く料亭に行きたいですね」
となど言ってひんしゅくを買ったことがありました。
 このような議員は例外としても選挙公約を読むと,任期中にはとても
できそうにないことをあえて公約にしたと思われるものも少なくありま
せん。
 たとえば,次のような公約が東京都の「選挙公報」に載っていました。
「戦争・核兵器のない世界の実現」,「政治家の身を切る改革」,「子ども
から高齢者まで全世代を守る社会の実現」,「大胆な減税の実現」,「正直
な政治をつらぬく」等,すぐには実現できないか,あえてやろうとしな
いことを堂々と「公約」にしてスローガンを掲げ選挙戦を有利に進めよ
うとする戦術ではないかと思います。
 このなかの「政治家の身を切る改革」の具体例を振り返ると,政治家
の実態がよく見えてきます。前回の衆議院選挙のときに問題になった文
書通信交通滞在費(略称「文通費」後に「調査研究広報滞在費」と改称)
について再考してみましょう。
 2021年10月31日投開票の衆議院議員選挙で当選した新人候補
や元職に対して100万円の文通費が10月分として満額支給されたこ
とが「永田町の論理」ということで問題になりました。
当選した議員が活動を始めるのは,どう考えても当選発表の翌日から
になります。しかし,従来の慣行から当選日から当月分として当選議員
全員に文通費100万円が配られたのです。そして,このことに驚いた
新人議員が「活動実態がないのにおかしい」と問題提起したことがきっ
かけになってようやく与野党の議員が「おかしい」ことに気づいたとい
うことです。
 文通費は,歳費法で「公の書類を発送しおよび公の性質を有する通信
をなす等の費用」と規定されていますが,インターネットの普及により
通信コストが低減したため,文通費を支給する意味がなくなっています。
また,2009年の衆議院選挙の際にも「在職2日」で歳費(議員の
給与)と文通費が満額支給されたことが問題になりました。その際は歳
費については日割り法が成立して解決しましたが,文通費はそのまま放
置されたという経緯があります。
 その後,日割り法案が国会を通過し可決されたものの,使途や領収書
添付の義務化は与党の反対で見送られ,「継続審議」になっています。
 このように,選挙公約は候補者の「選挙に当選したら実行する約束事」
ではなく,「選挙を有利に進めるための口実」として利用されているので
はないかと疑ってしまいます。


 他方,人事制度では多くの企業が給与改定や賞与を支給する際の成果
測定ツールとして目標管理制度を使っています。
目標管理制度は会社全体の年度目標を組織の目標に落とし込み,さら
に各部門目標を全社員の目標にまでブレークダウンするという仕組みで
す。社員全員が期初に立てた目標を期末までに達成すれば組織全体の目
標が達成でき,当年度の会社目標が達成できるというもので,日本の主
要企業の約8割が導入しています。
 しかし,目標管理制度にはいくつかの運用上の留意点があります。
その1つが目標設定の問題です。目標管理制度マニュアルには目標は
各人が背伸びをして到達できるような目標(ストレッチ目標)を設定す
るように書かれています。社員は目標の達成が自分の給与や賞与額に結
びつくため,どうしても「甘い」(簡単に達成できる)目標にする傾向
があります。それを指導するのが上司である管理の役割なのですが,ど
の法人でも指導しきれていないのが実態です。
 つまり,目標管理制度において目標設定が一番重要であるにもかかわ
らず一番難しいテーマといえるのです。
このように法人における目標管理制度は選挙における公約とよく似
ています。企業において達成できない目標を設定して期末面談で「で
きなかった言い訳」にする社員がいるように,できない選挙公約を掲げ
て当選した議員が公約を反故にするのと似ています。
 したがって選挙公約も法人組織における社員や職員の目標も,「具体
的なもの」,「現実的なもの」,「定量的なもの」が相応しいといえます。
いかにも達成できないような総花的な理想を掲げても半年や1年で達
成できるはずがないことは誰でもわかります。
 政治家の「嘘をつかない正直な政治」を現実のものにするのと同様に
会社の経営目標達成のために設定する目標も現実的で背伸びをすれば達
成できる目標にすることが重要です。

株式会社comodo
特別顧問 永島清敬

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