理念なき地域別最低賃金の引上げ

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 地域別最低賃金は毎年,厚労省中央最低賃金審議会が厚労相からの諮問を受けて答申し,各都道府県労働局長が決定するものです。改定額は毎年10月1日以降順次発効されます。今年の最低賃金改定
額は8月23日に決定しました。それを見ると最低額は沖縄県,秋田県等の853円で最高額は東京都の1,072円,その差は219円でした。このように最低賃金は毎年引き上げられてきましたが,筆者は日頃か ら「最低賃金は何を基準にいくらまで引き上げる必要があるのか?」とという素朴な疑問を抱いていました。そこで,本号では日本の最低賃金の決定基準(根拠)と最終目的である労働者の生活保障の観点から「いくらまで引き上げる必要があるのか?」というテーマについて論述したいと思います。


 そもそも労働条件の基準は戦後制定された日本国憲法第27条に規定されています。つまり,第27条第2項には「賃金,就業時間,休息,その他の勤労条件に関する基準は,法律でこれを定める」と規定されています。ご存じのように憲法は日本における最高法規で,国民主権,基本的人権の尊重,平和主義を3大原則とする基本法です。その理念は,国民1人ひとりの基本的人権と多様な生き方を尊重しながら自由で公正な共生社会を築くことに置かれています。
 したがって,20以上ある日本の労働法はそれぞれ憲法27条の基本理念に基づいて制定されています。代表的な労働法は労働条件の最低基準を定めた労働基準法で,法第1条には「労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と書かれています。この「人たるに値する生活」とは,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定する憲法第25条に依拠したものと考えることができます。
 以上のように考えたとき,労働法の1つとしての最低賃金法における「最低賃金」の基準は「労働者が健康で文化的な人間らしい生活ができる水準の賃金」ということになります。
 他方,諸外国の最低賃金の定義を見るとイギリスでは賃金全体の中央値の60%を最低賃金の目標にしていましたが,この目標は2020年に達成し,現在は2024年までに中央値の3分の2を目標にしています。EU(欧州連合)加盟のフランスでは最低賃金を物価や平均賃金と連動させる方式をとっています。
 これに対して,日本の最低賃金は2007年から生活保護者の給付額と比較した増額改正が行われ,その後は「前年比3%増」や「全国平均1千円」を目標にしてきました。しかし,「なぜ全国平均1千円にするのか?」,「なぜ前年比3%の引き上げを行うのか?」という根拠や理念がありません。
 戦後の日本経済復興の目標が「先進国に追いつけ追い越せ」というものでしたが,高度経済成長後はGDP世界第2位の地位に安住し,2010年に中国に追い抜かれました。それ以降も根拠なくGDPの目標値を決めていますが,今後日本の労働政策に求められているのは「他国に追従しない新しいビジョン構想」です。いつまでも2番手をめざす政策では,斬新な労働政策は立案も実現もできません。
 今こそマネやパクリの文化から卒業し,常に先進国のトップを走る斬新なアイデアの実用化と新規ビジネスモデルの開発が必要とされる好機といえます。いつまでもレガシーな仕組みを踏襲していれば世界の後進国に逆戻りするのは明らかだからです。

株式会社comodo特別顧問・経営コンサルタント 永島 清敬

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