給与のデジタル払い

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 来年度から給与の支払いがスマホ決済アプリや電子マネーを使ってできるようになりました。企業が従業員の給与をキャッシュレス決済の口座に振り込むことで可能になります。

 政府が2020年8月に閣議決定した成長戦略の一環として審議を進めてきた「デジタル給与払い」の制度化が厚労省の諮問機関「労働政策審議会労働条件分科会」から提示されたためです。

 そもそも賃金は現金で労働者に支払うことが労働基準法に規定されています。これは「賃金支払いの5原則」と呼ばれ,労働者の生活を保護する目的で賃金が労働者に確実に渡るように法律で定めたものです。

 労基法第24条では,使用者は労働者に①通貨で②直接③全額を④毎月⑤一定期日に支払うことを義務づけているのです。

 筆者が新卒で入社した食品メーカーのカルピス社では毎月25日に1円単位で現金が入った給与袋が上司の課長から手渡されていました。

 これも余談ですが,筆者がその後の人事異動で総務部人事課に配属されてからは毎月25日になると,人事課のスタッフ4名で役員から新入社員まで本社在籍者300人程度の給与の袋詰め作業を行っていたことを思い出します。

 給与支給日には朝から会議室に閉じこもり,取引銀行支店から運び来まれたジュラルミンケース入りの札束や硬貨を取り出して4本の会議用テーブルの上に並べ,そこからプラスチック製の小皿に取り分ける作業から始まります。最初にその様子を見た時は興味と驚きで胸がわくわくしたことを覚えています。次にスタッフの中のリーダークラスの人が金種表を見て1円玉から順に小皿に取り分けていきます。次が5円玉,10玉,50円玉,100円玉の順に小皿の上に丁寧に載せていきます。一とおり硬貨の仕分けが終わると次は紙幣になります。紙幣は五百円札と千円札,五千円札,1万円札の4種類でした。このようにして部署別の金種表を見ながらすべての現金が小皿に取り分けられ,テーブルの上に残金がないのを全員が確認して,初めてホッとするといった張り詰めた雰囲気の中での作業でした。

 だいぶ話がそれましたが,給与は労働者の生活を支える大事なものであるため,確実に労働者に渡すべき性格を持っています。しかし,時代の変遷の中で現金を持ち歩くことが紛失や盗難のリスク が高いという考えから次第に銀行振込が安全かつ確実ということになり,今では銀行振込が一般的になっています。

 現在進行中の「デジタル給与払い」の議論は2年前から労働政策審議会で審議され,本年9月13日に労働条件分科会が制度設計案を提示したことから来年度から実施される見通しになったということです。

デジタル口座の対象になる商品は「ペイペイ」,「楽天ペイ」,「d払い」等の資金移動業者のキャッシュレス口座です。現在全国財務局に登録している資金移動業者は85社ありますが,このうちから一定の条件を満たした厚労省指定業者が対象になります。

その指定要件は,資金移動業者の債務履行が困難になった時に労働者に債務保証できる仕組みがあること,ATMを利用してデジタル給与を1円単位で受け取れること,デジタル給与の口座残高の上限が100万円とすることなどです。

 こうしたデジタル化の潮流は不可逆的な流れで後戻りはできないことは自明の理といえますが,新規に制度を導入する場合には企業側の論理だけでなく,利用者である労働者の不利益や意思を尊重した仕組みづくりが重要であることを十分理解して進める必要があります。

株式会社comodo特別顧問・経営コンサルタント 永島 清敬

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