「自社の立ち位置がはっきりしない」
「競合と比べて、どこで勝負すべきか悩んでいる」
経営やマーケティングにおいて、こうした悩みを抱えている企業は少なくありません。
とくに、競合が多い業界では、自社の戦略を決めきれずに迷走してしまうこともあります。
そんなときに有効なのが、マーケティングの巨匠フィリップ・コトラーが提唱した「4つの競争地位分類」です。
このフレームワークは、自社が業界内でどのようなポジションにあるのかを見極めたうえで、立場に応じた戦略や目指すべきビジョンを明確にするための視点を見つけ出せます。
本記事では、コトラーの競争地位分類の概要から、それぞれの戦略の特徴、そしてビジョンへの応用方法までを解説します。
なぜ競争地位を分類する必要があるのか?

戦略を立てるうえで、「誰と競っているのか」「自分たちは今どこにいるのか」が分からないままでは、的外れなアクションになってしまいます。
たとえば、まだ市場での知名度が低い企業が、業界トップの企業と同じマーケティング施策を打っても、期待した成果は得られにくいでしょう。
コトラーは、こうした混乱を防ぐために「企業の競争地位」を4つに分類し、それぞれの立場にふさわしい戦略を示しました。
このフレームワークは、ただの分類にとどまらず、「自社らしい勝ち方とは何か?」を見極めるための羅針盤として機能します。
コトラーの競争地位分類|4つのタイプと戦略の違い

企業が成長戦略を描くには、まず「自社が業界の中でどのような立ち位置にあるのか」を正しく把握することが欠かせません。
コトラーの競争地位分類は、その判断に役立つフレームワークとして、企業をリーダー・チャレンジャー・ニッチャー・フォロワーの4つに分け、それぞれに適した戦略と課題を示しています。
以下では、この4タイプの違いや特徴を解説しながら、どのように戦い方が変わるのかを見ていきます。
リーダー(Leader)|市場をけん引する存在
リーダーとは、業界で最も高いシェアを持つ企業です。
潤沢な資金力、ブランド力、流通網、商品ラインの豊富さなど、あらゆる面で優れており、市場全体に対して影響力を持ちます。
リーダー企業の戦略は「フルライン戦略」が基本です。
これは、価格帯や機能、ブランド展開など、あらゆるニーズに応える製品群を用意し、顧客の流出を防ぐ方法です。
また、マーケット全体の成長を促しながら、自社のポジションを強化していくアプローチを取ります。
ただし、リーダーであるがゆえの課題もあります。
常に競争の的となり、新興企業やチャレンジャーからの追随を受けやすいのです。
そのため、ブランドの維持、イノベーション、価格競争など、多面的な対応力が求められます。
チャレンジャー(Challenger)|リーダーに挑む成長志向の企業
チャレンジャーは、業界2位〜3位に位置する企業で、リーダーとの差を縮めたいという強い成長欲求を持っています。
リーダーほどの資源はないものの、技術力やスピード感を武器に、市場の一角を崩そうとする立場です。
戦略の中心は「差別化」です。
製品やサービスのユニークさ、デザイン、顧客体験など、他社と明確に違いを出すことで、自社の存在感を高めていきます。
価格競争よりも、「なぜこの企業なのか」を明確に伝えることが求められます。
また、リーダーがカバーしきれていないニーズをすくい上げる“穴場戦略”も有効です。
リーダーの弱点を突く形で、限定的ながらも深いファン層をつくる戦術が展開されます。
ニッチャー(Nicher)|「狭く深く」一点突破する専門家企業
ニッチャーは、業界全体では小規模ながら、特定の分野において高い専門性やブランド力を持つ企業です。
ニッチ戦略では、スケールではなく「独自性」に全振りします。
顧客との深い信頼関係を構築し、価格以上の価値を提供することがカギとなります。
たとえば、ペット向けのオーガニックフードに特化したメーカーや、医療機関向けの特殊なITシステムを開発する企業などが該当します。
ニッチャーが直面しやすい課題は、対象市場の限界や他社の模倣です。
狭い市場に依存している分、外部環境の変化に弱いため、常に新たな深掘りと進化が求められます。
フォロワー(Follower)|模倣と効率で堅実に立ち回る
フォロワーは、市場のルールメーカーではなく、既存の成功モデルを模倣・追従しながらビジネスを展開する企業です。
独自性よりも、コスト競争力や効率性を重視する戦略が特徴です。
フォロワーが持つべき強みは「ローコスト・安定供給・堅実性」です。
無理に革新を狙うのではなく、地に足をつけて利益を着実に積み重ねていきます。
一方で、フォロワーにはブランド構築が難しいという課題があります。
単なる「安い企業」で終わらず、堅実な品質やアフターサポートなど、信頼感を補う施策が重要です。
自社の立ち位置が、ビジョンを抽象から具体に変える

ビジョンとは、企業が「どこに向かうのか」を示す未来像です。
しかし、抽象的な理想のままでは、現場での行動や意思決定に落とし込むことはできません。
そこで重要になるのが、「自社の立ち位置」を把握することです。
フィリップ・コトラーが提唱した4つの競争地位分類(リーダー・チャレンジャー・ニッチャー・フォロワー)は、企業が自身の市場ポジションを理解し、それに応じたビジョンを策定するための気づきを与えてくれます。
ポジションごとに「ふさわしいビジョン」は異なる
自社が今どこにいるのかによって、目指すべき未来の姿も当然異なります。
市場トップのリーダー企業が掲げるべきビジョンと、ニッチ市場に特化したニッチャー企業のビジョンは、根本から異なるべきです。
たとえば、ニッチャーであるにもかかわらず「業界No.1」を目指すビジョンは現実味に欠け、社員の納得も得づらくなります。
一方、リーダー企業が「品質を高める」などの一般的な表現にとどまると、業界や社会に対するリーダーとしての影響力が伝わりません。
このように、競争地位ごとに“ビジョンの適正解があるということを前提に、ビジョンは設計されるべきなのです。
立ち位置を知ることが、ビジョンと戦略の原点になる

企業はそれぞれ異なるスタート地点に立っています。
だからこそ、「どこにいるか」を把握したうえで「どこへ行くか」を描くことが重要です。
コトラーの4分類は、その第一歩を検討する上で大きなヒントになるでしょう。
戦略を決めかねている企業、方向性に迷っている経営者にこそ、今一度、自社の競争地位を見直すことをおすすめします。
そのうえで、ビジョンを策定する際には、ぜひ一度弊社までご相談ください。
「ビジョン・ブラッシュアップ」として、貴社ならではのビジョン策定のサポートを行います。

株式会社comodo
石垣敦章(イシガキ ノブタカ)