「価格を下げると品質が落ちる」
「機能を増やすとコストが上がる」
そんな常識を疑うところから、バリューイノベーションは始まります。
本来、ビジネスにおいて「低コスト」と「高付加価値」はトレードオフの関係にあると考えられてきました。
しかし、バリューイノベーション(Value Innovation)の考え方は、その相反を乗り越え、「同時に実現する」という選択肢を提示します。
本記事では、バリューイノベーションの中核であるERRCのフレームワークを解説しながら、それを活用したビジョン策定の思考法までを丁寧に紹介します。
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バリューイノベーションとは何か?

バリューイノベーションとは、競争が激化する市場で「差別化」と「低コスト化」を同時に実現する戦略アプローチです。
これは、従来の「コストを抑える=品質を削る」という発想から脱却し、顧客にとって本当に必要な価値だけを抽出し、ムダを徹底的に省くことで可能になります。
この考え方は、ブルーオーシャン戦略の中核に位置づけられています。
つまり、既存のレッドオーシャン(過当競争)から抜け出し、競争のない新市場を創造するための戦略でもあります。
競合と同じ軸で争うのではなく、「別の価値基準」で勝負をする、これがバリューイノベーションの考え方です。
ERRCフレームワーク:4つの問いで価値を再定義する

バリューイノベーションを具体的に実行するための手法が、「ERRC」と呼ばれるフレームワークです。
これは以下の4つの視点から商品やサービスの要素を見直すプロセスです。
- Eliminate(取り除く)…当たり前のように存在しているが、顧客にとって実は価値を感じにくい要素を「思い切ってなくす」視点
- Reduce(減らす)…価値として一部は認められるものの、過剰に提供していた要素を「必要最低限に抑える」視点
- Raise(増やす)…他社よりも際立たせるために、「強化すべき価値」を特定し、標準以上のレベルで提供する視点
- Create(付け加える)…競合が提供していない新たな価値を、ゼロから創り出す視点
これらの4視点を掛け合わせて、新たな顧客価値を創出しながら、コストは抑えるという方法です。
従来の「差別化か低価格か」を超える思考法
多くの企業は、差別化を図ろうとするとコストが上がり、コストを下げようとすると機能や品質を犠牲にしてしまいがちです。
結果、価格競争か高級路線か、という二択に陥りがちです。
バリューイノベーションは、そもそもこの「二者択一」を検討し直します。
「競合と違う軸で、顧客に必要とされる価値だけを残す」ことで、低コストでも圧倒的な差別化が実現するのです。
バリューイノベーションを応用したビジョン策定の考え方

バリューイノベーションは、商品やサービスの話だけではありません。
企業が「これからどうありたいか」を考えるうえでも、とても役立つ考え方です。
特に、自分たちの強みや価値を見直して、他社と違う道を進みたいと感じている企業にとっては、ビジョンをつくる土台にもなります。
ここからは、ERRCの4つの視点を使って、どうやってビジョンを組み立てていけばいいのか。
そのヒントや考え方を具体的に紹介していきます。
1. 「何をなくし、何を増やすか」を言語化する
多くのビジョンは抽象的で、「業界No.1を目指す」「顧客に愛される企業になる」といった漠然とした表現に留まりがちです。
しかし、ERRCを活用することで、ビジョンをより具体的に再構築することが可能になります。
価値の構成要素を言語化していくことで、ビジョンが「行動方針の集合体」として輪郭を持ち始めます。
2. 自社の立ち位置を見極めたうえで「変えるべき常識」を見つける
ビジョンは「自社の現在地」と「目指す未来」をつなぐものです。
バリューイノベーションを応用するには、まず以下の問いに正直に向き合う必要があります。
- 自社は今、業界の中でどんな位置にいるのか?
- その業界では、どのような要素が“常識”になっているか?
- その常識の中に、顧客がすでに飽きているものはないか?
たとえば、リーダー企業であれば、「市場を再定義するような価値の創出」が求められます。
一方で、ニッチャーやチャレンジャーであれば、「あえて取り除く」「あえて足さない」といった“逆張り”によって注目を集める戦略が有効です。
ビジョンに「差別化×低コスト」の発想

バリューイノベーションは、価格競争でも高級路線でもない「第3の道」を示してくれる思考法です。
そしてその視点は、戦略だけでなく、企業が掲げるビジョンの質そのものを高めてくれます。
- 何をやらないのか(Eliminate・Reduce)
- 何をやるのか(Raise・Create)
この二軸を軸にしたビジョンは、社内外に対して具体的な行動指針となり、共感と納得を呼びやすくなります。
競争の激しい市場、先行きの見えない時代にこそ、バリューイノベーションの視点からビジョンを練り直す価値があります。
弊社でもビジョンを策定しなおす、「ビジョン・ブラッシュアップ」を行っておりますので、ぜひビジョンを見直したい際にはご相談ください。

株式会社comodo
石垣敦章(イシガキ ノブタカ)