ビジネス環境がますます複雑化する中で、企業が複数の事業を効率的に管理し、リソースを最適化することは極めて重要です。
そのための有効なフレームワークの一つが「PPM(Product Portfolio Management)」です。
本記事では、PPMの基本的な仕組みと活用方法、さらに企業のビジョンに基づいた応用について詳しく解説します。
PPMとは?
PPMは、企業が持つ複数の事業や製品を整理・分析し、事業のポートフォリオ(事業構成)を戦略的に管理するためのフレームワークです。
このフレームワークは、以下の2つの軸を基準に事業を評価・分類します。
- 市場成長率:対象市場の成長性を示す指標。高いほど将来性があることを意味する。
- 相対マーケットシェア:自社の市場占有率を競合と比較して評価する指標。
この2軸を用いることで、事業を以下の4つのカテゴリに分類します。
花形事業(高成長率・高シェア) | 市場成長率も高く、相対シェアも高い「稼ぎ頭」となる事業。このカテゴリに属する事業は、さらなる投資によって将来の「金のなる木」として育てることが期待されます。 |
金のなる木(低成長率・高シェア) | 市場成長率は低下しているものの、依然として高いシェアを誇り、安定したキャッシュフローを生み出す事業。この事業から得た収益を他の事業に投資することが、PPMの基本的な戦略の一部となります。 |
問題児(高成長率・低シェア) | 市場成長率は高いものの、相対シェアが低いために大きな収益を生み出せていない事業。このカテゴリに属する事業は、適切な投資で「花形事業」へ成長させるか、撤退を検討する必要があります。 |
負け犬(低成長率・低シェア) | 市場成長率・相対シェアともに低い事業。企業にとって負担となる場合が多いカテゴリで、撤退や統合の検討が推奨されます。 |
PPMの導入プロセスと具体的な手順
PPMの導入は、下記の手順で進めていきます。
- 事業データの収集と整理
- 分析による事業の分類
- 戦略の立案
- 戦略の実行とモニタリング
以下では、それぞれの手順の具体的な考え方について解説します。
1.事業データの収集と整理
まず、各事業の市場成長率と相対マーケットシェアを正確に測定する必要があります。
これには、業界レポートや市場調査データを活用するのが一般的です。
2. 分析による事業の分類
収集したデータをもとに、事業ごとの位置づけをPPMマトリックス上で可視化します。
円の大きさを事業の規模(売上高など)として描くことで、ポートフォリオ全体のバランスが一目で把握できます。
3. 戦略の立案
各カテゴリに応じて、以下の戦略を策定します。
- 花形事業:競争力を維持・強化するための投資を実施。
- 金のなる木:収益の効率的な運用を図り、他事業への投資資金として活用。
- 問題児:市場シェア拡大の可能性を検討し、実現が難しい場合は撤退を検討。
- 負け犬:撤退や統合などの整理戦略を策定。
これらの戦略は、事業の優先順位を明確にし、限られたリソースを最適に配分するための指針となります。
4. 戦略の実行とモニタリング
戦略を実行した後は、定期的にモニタリングを行い、成果を評価します。
市場環境や競争状況の変化に応じて柔軟に対応しましょう。
PPMはビジョンに活用できる
PPMの強みは、現状分析だけでなく、将来の方向性を定めるための指針としても活用できる点です。
企業のビジョンと組み合わせることで、事業戦略の整合性を高められます。
以下では、2つの観点からPPMのビジョンへの活用方法について解説します。
ビジョンとの組み合わせによる新たな価値
企業が掲げるビジョンに基づき、各事業の役割を再定義できます。
例えば、持続可能な成長を目指す企業では、「花形事業」を環境に配慮した製品やサービスに特化させることで、競争優位性を強化できます。
また、「金のなる木」の収益を、社会的価値の創造に向けた新規事業への投資に振り向けることで、ビジョンの実現を加速させられるでしょう。
長期的な視点でのPPMの活用
PPMは短期的な成果を追求するだけでなく、長期的な事業ポートフォリオの最適化にも役立ちます。
例えば、現在「負け犬」に分類される事業であっても、ビジョンに照らした場合に価値があると判断されれば、戦略的投資によって復活を目指せます。
PPMの理解で会社の軸を強くする
PPMは、企業が事業の現状を正確に把握し、選択と集中を実現するための有効なフレームワークです。
また、企業のビジョンと連携させることで、単なる事業整理にとどまらず、持続的成長を可能にする戦略的なフレームワークとしての可能性を広げられます。
弊社では、このようなフレームワークも参考にしながらビジョンを策定する「ビジョン・ブラッシュアップ」研修を行っています。
自社の事業を分析するために、ビジョンの見直しから行ってみてはいかがでしょうか。
株式会社comodo
石垣敦章(イシガキ ノブタカ)